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末期日記新装版
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どうしたのだろう、もしや並んでる間に痴漢にでもあったのか、おのれそのプレイはまだ次のお誕生日に取っておこうと楽しみにしてたのに何処のどいつだそんな羨ましい事をしやがったのはこの鞭の露にしてくれんとコンマ0秒もかからぬうちに脳内劇場で再生された『あなたを白くそめてあ・げ・るvイケないホワイトデイ~お菓子売り場は危険がいっぱいとっぴんぐはぶっかけ生本番』に憤りと鼻血をかろうじて押さえている自分の苦労など思いもせぬ相棒の

「一番小さいのしか買えなかった…」
なんであんなに高いんだよぅ。

しょんぼりとうなだれたその頭と尻に犬の耳と尻尾の幻をみる。
腐っても高級ブランド、大衆化してもチロルがセキの山の相棒の財布には荷が勝ちすぎる。相棒の給料日前の財布の中身は空気の方が多い。
それでも一番小さい物であろうと購入したのは余程、あの上司から貰ったという品が忘れられぬのか。

どす黒い突風が心の中を駆け抜けた。

そんな事を許してたまるか。
相棒の心の中にはいつだって自分が占めていなくてはいけない。あの上司だろうが何だろうが、1マイクロミクロンたりと存在する者は許せない。
もし存在するならば…

悪名高き同僚の満員電車の車中で公開犬耳痴○プレイをしても飽きたらぬ!

可愛さ余って憎さ百万倍。渦巻く憎しみの暗雲を背負うその耳に

「ほんと上官、よくあんなのぽいぽい貰ってくるよなぁ」
あんまいっぱいあるからもっと安いかと思ってた。

やっぱ上官すげぇんだとしょげた中に興奮を隠せぬ声が届く。

「…は?」

珍しく間抜けな声を出した自覚はある。だがそんな事を気にしている場合ではない。相棒は今なんと言った。

「上越上官『が』貰った?」
上官『に』貰ったんじゃなくて?

らしくもない伺うような眼差しに、相棒は平然と
「ああ、上官『に』貰ったぜ上官『が』貰ったチョコを」
休憩時間に皆で。

あん時は誰がいたっけか、上越と信越は覚えているけど八高はいたっけかなと指折り数えるがそんな事はどうでもいい。
つまりは盛大なる自分の勘違い。あの見た目だけはそれなりの上司の本性を知らずにチョコを送る相手がまだ大量にいたらしい。それを甘い物を好まぬ上司が下に配っただけという、聞いてみれはただそれだけの話で、そんな単純な事に思いいたらなかったなど…

普段、自分の上司を恋は盲目と嘲っていたが、これでは上司を笑えぬではないか。

だが、しかし、それも仕方がないではないか。
彼処には人間ディスポーザーがいる。食料と名のつくものはそれこそ米粒一つでも必要なのは周知の事実。かのハラペコマチが走りだしてからというもの、食料の確保に躍起になった上官達にとって特にバレンタインはその年の東の予算をも左右するほどの大事なかき入れ時の筈なのに、それを外部に流出させるなどこれまでなかった話である。
もしや、コマチに何か起こったか。
とすれば…

チャーンス。

脳内の自分が口端を急な角度に引き上げる。

あの相棒の上司の守護神その2を自任するかの食欲魔神が不調ならばその隙をつき……

ふ、ふ、ふー。

あの上司にダメージを与える千載一遇の機会に脳内の自分が高笑いする声を聞く。

そうとも知らぬ何も考えない相棒が
「いつもはさぁ、秋田上官に全部上げちゃうんだけど、秋田上官にドクターストップがかかったんだって」
聞きたかった情報を垂れ流す。

よし来た相棒、それが聞きたかったのだ。

浮き足だつ心を押さえ

「へぇ、あの秋田上官がドクターストップなんてどうしたの」

何気ない風を装い決定的な答えを尋ね……

「うん、親知らず」
たまたま、治療がその日だったんだと。

すっこけた。

「麻酔が切れれば普通の食い物は食べてもいいらしいんだけど、一応抜歯だろう?チョコとか酒とかあんま飲み食いすると出血するかもしれないから、傷が塞がるまでは我慢させろって言われたんだって」

…頭の上から降ってくる声はすでに遠い。

「大変だったらしいぜー上官達、とにかく秋田上官からチョコ隔離するのに皆、各支社に貰ったチョコ集めてさぁ」
特に東北上官なんて、支社の自室に鍵5個もかけたって。
「で、賞味期限が早いのは俺らにくれて、まだ残るからどうしようって…あ?宇都宮何やってんだ?」
何か落としたか?

ーはい、私の野望です。

期待していた分ダメージがでかい。

立ち直れずに床に相棒との幸せ生活を探している自分の鼻孔が甘ったるい匂いを捉えた。
既に通路に充満しているのと同じ匂い、既に慣れた鼻が感じなくなった匂い、それが

「ほら、一個お前の分」
何か知らねぇけどこれ食って元気だせよ。

目の前に差し出されていた。
いつの間にか包装を解かれ蓋を開けられた小さな箱の中に黒と白の丸い玉が一つずつ、ちんまりと並んでいる……

「だって、これ君の…」
それは、相棒が薄い財布の中身をはたいて買ったものだ。買ってもいいとわかったら嬉しそうに駆け出して、でも、小さいのしか買えなかったとしょぼくれて……

二個しかない貴重なもの。

上司から貰って美味かったと言ったそれ。

そんなの貰える訳がない。

「いいよ、僕は」
君が食べればいい。
箱と相棒の顔を交互に見つめて横に首を降ると何を勘違いしたのか

「遠慮すんなって!いいんだよ最初っからそのつもりで買ったんだから」
美味かったから、お前にも食わせてやりたいと思ったんだ。

ぐいと鼻先につきつけてきた。
一層強まる甘い匂いに頭が一瞬くらとよろめいた。いやそれは単に匂いのせいだけなのか、それとも自分の予測だにしない相棒の言葉にか。
どちらにしろ……

だって今日は世話になってる相手にお菓子を贈る日なんだろう?一応さ、俺はお前に一番に世話になってるからさ。

「だから、お前に」

にっかと笑って差し出されるその笑顔に全て持って行かれた。

でも一個しか買えなかったから半分こな、あ、お前好きな方選んでいいぜ、一応お前にやるわけだから、こっちがオレンジなんとかが入っててこっちが……

楽しそうな説明も聞こえない。
だって、そんな、自分は勝手に疑って、勝手に怒って、勝手に凹んで……

こんな結末、全く予想だにしなかった。
いつだって、相棒の考える事は察しがつく、だが、相棒の行動は自分の考えを軽く飛び越えてしまう。そして……

「ホント、美味いんだから」
な!
飛び越えて、なのに、いつの間にか自分の隣りで笑ってる。
笑って、自分に手を差し伸べるのだ。
どこへも行く事も無く。

いつだっていつだっていつだって……

この世に自分の存在を認識してからそれは変わらない真実。

どんなに時代が変わろうと、どんなに世界が変わろうと。

この相棒だけは変わらない。

真っ黒な自分の世界の中、ただ一つ真っ白な光……

眩い光から目を背け、突き出された小さな箱を見つめる。
昔の客車のように小さな箱の中に仲良く並んだ黒と白。
丁度自分たちのようなそれ。

この箱のように小さな世界ならば二人っきりでいれるのに、きっとこんな風にいれるのに、自分たちを取り巻く世界はもっと大きくて、満員電車のように沢山の人がひしめき合って、とても二人っきりじゃいられない。
だから、怖くて、相棒がいつか他の相手に盗られるんじゃないかと、他の相手を選んでしまうんじゃないかとある事ない事疑ってしまう。
だけど……

二つっきりの小さな世界から顔を上げれば、そこには太陽のような満面の笑みの相手。

脳内ではない、現実の自分の唇が引き上がる。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」
黒い方に手を伸ばせば、相棒は途端に眉を下げる。
どっちでもいいとは言った物の、相棒は白いチョコよりも普通の方が好きで、だが言った手前、そっちがいいとは言えない相棒の困った顔に、胸中にわだかまっていた黒いもやがすうっと晴れる。

ああ、この相棒には敵わない。

くつくつ笑いながら白い方を取れば、あからさまに安心したように顔をほころばせる相棒に
「でもそれ、高崎の苦手なビターだけど」
あーあ、折角僕が気を使ってあげたのに。
にっこり笑って種を明かせば、情けない顔で
「えー!そんなぁ!」
宇都宮ぁ!

縋るように訴えるその眼差しに笑ってしまう。

二人っきりではない世界には他の他人も大勢いて、でもその中で自分の隣りにいてくれる。

ーそれって凄いことだよね?

今はそれだけでよしとしようと「仕方がないなぁ高崎は」立ち上がりざま呆れたフリで白を戻して黒を取れば、「やったぁ、好きだぜ宇都宮」と相好を崩した相棒がその意を知らぬ言葉を使う。

ー僕なんか愛しているよ。

このチョコと同じ位真っ黒にとろける程に君を君だけを……

うめぇ!とさっさと白を口に放り込んだ相棒の感極まった声を聞きながら黒を口に含めば、この想いそのもののような味が舌の上で溶けて喉奥に落ちて行く……

宇都宮はゆっくりと自身を満たすそれを飲み下した。
















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